家づくりの打ち合わせで「樹脂サッシにすると断熱性が上がります」と聞いたこと、ありませんか?
確かにその通り。樹脂サッシは断熱性・気密性が高く、冷暖房効率を上げてくれる優秀な窓です。
でも――「だから環境にやさしい」と言い切ってしまうのは、少し危険かもしれません。
今回は、省エネ性能だけでは見えてこない「樹脂サッシの本当の姿」について、住宅のプロの目線から分かりやすく解説していきます。
樹脂サッシとは
樹脂サッシとは、窓枠のフレームにPVC(ポリ塩化ビニル)などの樹脂素材を使用したもの。
アルミに比べて熱伝導率が非常に低く、断熱性・気密性に優れているのが特徴です。
樹脂サッシの主なメリット
- 室内の温度変化を抑え、冷暖房効率がアップ
- 光熱費を削減できる
- 結露が発生しにくく、カビ・ダニの繁殖を防げる
- CO₂排出量を減らし、環境にも貢献
つまり、省エネ性能という点では申し分のないサッシ。
――少なくとも、ここまでは“完璧”に思えます。
本当に「環境にやさしい」の?
「省エネ=エコ」というイメージがありますが、樹脂サッシの“その先”を考えると、少し立ち止まりたくなる現実があります。
実はリサイクルが進んでいない
樹脂サッシは、ほとんどが埋立処分されているのが現状です。
その理由は、
- 樹脂フレームとガラスが溶着されていて分離できない
- 樹脂の種類が多く、混ざると再利用できない
といった構造的な問題にあります。
つまり、「樹脂=リサイクルしやすい」というイメージは誤解。
ペットボトルのようにはいかないのです。
一方、アルミサッシは…
アルミはリサイクル技術が確立されており、再生アルミを使った製品も多く出回っています。
この点では、むしろアルミの方が“エコ”と言えるかもしれません。
リサイクル問題だけじゃない、樹脂サッシのデメリット
施工性にもクセがある
樹脂サッシはアルミサッシとは構造が異なり、施工に一癖あります。
ビスの打ち方、補強材の入れ方、ガラスの重みを考慮した傾き調整など、慣れていない業者にとっては難易度が高め。
そのため、多くのメーカーは初めて施工する住宅会社に対し、施工説明会を必ず実施しています。
それだけ、正しい施工が求められるということ。
つまり、施工品質にバラつきが出やすい=施工不良リスクが高いという点も見逃せません。
トリプルガラスとの相性問題
トリプルガラスが普及してきた今、樹脂サッシには強度面での課題もあります。ガラスは非常に重く、その重量を樹脂フレームで支えるのは容易ではありません。
補強材を入れたり、サッシを厚くしたりといった対応が必要になりますが、その分コストやデザイン性、施工性に影響が出ることもあります。
熱に弱いという素材の宿命
樹脂の耐熱温度は約80℃。
一方、アルミは600℃以上です。
この差は非常に大きく、日射や高温環境では変形・変色のリスクがあります。
実際、メーカーのカタログには小さく「高温となる環境では変形の恐れあり」と明記されています。
軒の浅い南面や、直射日光が当たり続ける外壁面などでは注意が必要です。
デザイン性の課題
最近は、天井まで届くハイサッシや大開口窓が人気です。
しかし樹脂サッシは強度確保のためにフレームを太くしなければならず、その分ガラス面積が小さくなってしまいます。
同じサイズの窓でも、アルミサッシと比べるとガラス面積が約30%少ないとも言われています。
結果、少し重たく・野暮ったい印象になることも。
地域によって“最適解”は違う
もちろん、北海道や東北などの寒冷地では、樹脂サッシの高断熱性能は絶大な効果を発揮します。
一方で、温暖な地域では、アルミ樹脂複合サッシという選択肢も十分理にかなっています。
「樹脂サッシだからエコ」と短絡的に決めつけず、地域性・デザイン・施工性・廃棄時の環境負荷まで含めて考えることが大切です。
エコの定義をもう一度考えよう
樹脂サッシは、省エネ性能という意味では非常に優れた製品です。
しかし、その「環境にやさしい」というイメージの裏には、リサイクルや処分といった課題がまだ多く残っています。
本当にエコな選択とは、「省エネ」だけでなく「素材の一生(ライフサイクル)」を見据えること。そして、自分の身の回りの”エコ”ではなく、地球にとっての”エコ”を考えることだと思います。
性能の数字や宣伝文句だけに頼らず、長く付き合える窓とは何かを、自分の目で見極めたいものですね。
筆者:ともぴ(一級建築士/インテリアコーディネーター)
「家づくりは、賢く・楽しく・ちょっとあざとく」をモットーに、失敗しない家づくりのヒントをブログで発信中。