太陽光を後付けする前に、必ず知っておいてほしいこと
リフォーム工事として、今や定番になりつつある太陽光発電システム。
最近では「実質0円で設置できます」「初期費用はかかりません」といった、かなり魅力的な売り文句の商品も増えてきました。「そろそろウチも載せようか」そう考え始めている方も多いと思います。
ただ、ここで一つ、冷静に考えてみてほしいことがあります。
あなたの家、本当に太陽光を載せても大丈夫でしょうか?
あなた自身が判断できなくても構いません。 問題は、あなたがお願いしようとしているその太陽光業者が、きちんと判断できるかどうかです。

はじめに|国の考え方はどうなっている?
国土交通省は、既存建築物の屋上に太陽光パネルを設置する際の留意点について、次のような考え方を示しています。
戸建住宅における太陽光発電システムの設置について(出典:国土交通省)
既存建築物の屋根上設置における注意点
- 家の構造や強度を調査し、パネルの荷重に建物が耐えられるか確認すること
- 雨漏りの有無や防水材の劣化状況を事前に調査し、適切な改修や防水対策を検討すること
- 建物の構造を熟知している専門家に相談すること
- 高さ制限などの法令や、積雪・塩害・強風といった地域特有の条件に適合するか確認すること
……正直、かなり難易度高めかつ抽象的です。
要するに、国としては「原則ダメとは言わないけど、自己責任でちゃんと考えてね」というスタンスだと読み取れます。つまり、具体的な安全確認やリスク回避は、すべて設置側と施主側に委ねられているということです。
あと、建築士としてどうしてもモヤっとする点をひとつ紹介します。太陽光発電の後付け工事は、原則として建築基準法上の確認申請は不要とされているんです。
……いや、冷静に考えてみてください。
- 屋根に恒常的な重量物が載る
- 建物にかかる荷重条件が変わる
これ、どう考えても「建物条件の変更」ですよね。それでも確認申請は不要。理由はシンプルで、 建築基準法が想定しているのは「一定範囲の軽微な設備追加」だからです。
でも正直、その”軽微”、誰が判断するんですか?
行政は細かくチェックしない。 設計者も関与しないケースが多い。結果、 荷重が増えた事実だけが、静かに建物に残る。国としては「ルール上はOKだから、あとは現場でうまくやってね」というスタンスなのでしょう。
……さすが法治国家ニッポンですね♡
だからこそ、 制度が守ってくれない部分は、自分で守るしかないという前提で考える必要があります。
リスク1|構造・荷重の問題
太陽光は、想像以上に重い

一般的な太陽光パネルは、架台を含めると1㎡あたりおおよそ15〜20kg前後の荷重になります。結構重いんです。これが屋根全面に載ると、建物には恒常的な追加荷重がかかり続けます。
設計時に想定していない荷重は、リスクになる
新築時から太陽光を想定して設計された住宅であれば問題になりにくいですが、 後付けの場合、そもそもその重さを前提に構造計算されていない家も多いのが現実です。
特に注意したいのが、1981年(昭和56年)以前に建てられた建物。この年に建築基準法が改正され、構造安全性に関する考え方が大きく変わりました。
つまり、1981年以前の建物は、今の基準より余力が少ない可能性が高いということです。
実際に起こり得る影響
- 梁や垂木が徐々にたわむ
- 建物全体が歪み、ドアや窓の開閉に支障が出る
- 極論ですが、地震時に本来耐えられるはずの揺れで被害が拡大する
さらに厄介なのは、 「太陽光の荷重が被害拡大に寄与した」と判断された場合、設置側の責任が問われる可能性があること。
ここで、ぜひ自問してみてください。
その太陽光業者、万一のときに責任を取れる会社ですか?
異業種からの参入も多い太陽光業界。 価格だけで選んでしまうと、後で逃げ場がなくなることもあります。
リスク2|雨漏れ・瑕疵トラブル
太陽光の後付け工事は、原則として屋根に穴をあける工事を伴います。
つまり、雨漏れリスクは確実に上がります。
築浅住宅ほど、揉めやすい

築10年未満の住宅の場合、新築時の瑕疵担保責任期間内であることが多く、 万一雨漏れが発生すると、
- 太陽光業者「ウチの施工が原因とは限らない」
- 新築会社「後付け工事が原因では?」
という責任の押し付け合いが起こりがちです。原因の特定には時間もお金もかかり、施主だけが消耗するケースも珍しくありません。
また、 後付け工事によって新築時の保証が無効になると定めている契約も存在します。(消費者保護の観点では問題になり得る内容ですが、 少なくとも「事前に確認すべき重要事項」であることは間違いありません)
リスク3|屋根材とメンテナンス性

太陽光を載せるということは、 その部分の屋根が、今後点検・メンテナンスしにくくなるということでもあります。
特に注意したいのが、 耐久性の低い化粧スレート屋根の場合。
- すでに劣化や割れがある
- 防水性能が落ちている
こうした状態のまま太陽光を載せてしまうと、 後から屋根を直したくなっても、太陽光を一度外す必要が出てきます。載せる前の現況調査が超重要です。
「とりあえず載せられますよ」で済ませる業者は、正直おすすめできません。
リスク4|長期優良住宅・耐震等級との関係

長期優良住宅や耐震等級を取得している住宅は、 きちんと構造計算が行われています。そしてその計算は、 太陽光パネルの有無を条件として設定した上で行われているのが通常です。
後付けで等級を満たさなくなる可能性
もし
- 太陽光「なし」で構造計算
- 後から太陽光を設置
という場合、 理論上は耐震等級を満たさなくなる可能性があります。
その結果、
- 長期優良住宅の認定条件から外れる
- 補助金・税制優遇の返還リスク
といった話が頭をよぎります。
……ただし、正直なところこの理由だけで実際に返還を求められる可能性は極めて低いでしょう。とはいえ、 地震保険の評価や、家の性能表示との整合性という意味では、 無視できないポイントです。
業者選びが、すべてを左右する

ここまで紹介してきたリスクは、
- 業界では割とよく知られている
- でも、実務では軽視されがち
というタイプのものばかりです。顕在化していないだけで、 常に背後に潜んでいるリスクとも言えます。
これを回避できるかどうかは、 ほぼ業者選びで決まると言っても過言ではありません。
太陽光業者選びのコツ
コツ1|住宅を理解しているか
太陽光業界には、 電気・設備・訪販・異業種など、さまざまな会社が参入しています。しかし、 家全体の構造・防水・保証を理解しているのは、やはり住宅のプロです。
後付けの太陽光工事は、住宅会社に任せるのがベター。トラブルへの耐性、話の早さは段違いです。
コツ2|その家を理解しているか
- 構造種別
- 屋根仕様
- 建築当時の条件
これらを把握している会社が理想。そう、最も確実なのは、 その家を建てた会社に相談することです。
コツ3|施工体制が一気通貫か
「材料はウチ、施工は別会社」
これは正直おすすめしません。設計・施工・申請・アフターまで、 責任の所在が一本化されている会社を選びましょう。
コツ4|豊富な施工実績
施工実績が多い会社ほど、
- 屋根形状
- 屋根材
- 既存住宅特有のクセ
への対応ノウハウが蓄積されています。価格だけでなく、「経験値」も必ず比較対象に入れてください。

太陽光発電は、正しく設置すれば心強い設備です。ただし、 後付けの場合は、新築時にはなかったリスクを背負うことも事実。
「あざとく、かしこく」導入するためにも、 ぜひ一度立ち止まって検討してみてください。
筆者:ともぴ(一級建築士/インテリアコーディネーター)
「家づくりは、賢く・楽しく・ちょっとあざとく」をモットーに、失敗しない家づくりのヒントをブログで発信中。


