ピエール・ジャンヌレとは?
ピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret)は、スイス生まれの建築家・デザイナー。あのル・コルビュジエの従兄弟であり、長年にわたって共同で建築やデザインの仕事をしてきました。名前はあまり知られていないかもしれませんが、その作品は、現代のインテリア愛好家たちにとって“通好み”な存在。特に、インドの都市「チャンディーガル」のために手がけた家具群は、近年ヴィンテージ市場でも注目されています。
ル・コルビュジエとの関係とインドでの挑戦
ジャンヌレは1920年代からル・コルビュジエと活動を共にし、サヴォア邸などの近代建築の代表作にも関わりました。しかし、彼のインテリアデザインにおける最大の転機は、1950年代にル・コルビュジエと共にインドの新都市「チャンディーガル」建設に携わったことです。

都市計画の一環として必要とされた公共建築と、そこに付随する大量の家具。それらの設計と製造を担ったのがジャンヌレでした。現地の資材と技術、職人を活かして作られた家具は、合理性と手仕事の美しさを兼ね備えた素朴で力強いものでした。
ジャンヌレの家具の特徴
- 素材感:主にチーク材やローカルウッドを使用。温かみのある質感が特徴。
- 構造の美しさ:V字脚や斜めの背もたれなど、構造そのものがデザインになっている。
- ローカルクラフト感:手仕事による揺らぎや荒さも含めて、全体として素朴で飾らない美しさがある。
- 機能美:大量生産・現地調達という制約の中で生まれた無駄のない機能美。
このように、ジャンヌレの家具は「洗練されたモダンデザイン」というよりも、「自然体で温もりのある佇まい」が魅力です。
インテリアスタイルとの相性
ジャンヌレの家具は、以下のようなテイストと非常に相性が良いです。
ナチュラル・オーガニックスタイル

無垢材の床や塗り壁など、自然素材を活かしたインテリアと好相性。ジャンヌレの家具は、素材感が活きる空間でこそ真価を発揮します。観葉植物との相性も抜群で、グリーンと木の色のバランスが空間に奥行きをもたらします。
ミッドセンチュリー・モダン

北欧家具や1950〜60年代の名作家具と並べても引けを取らない存在感。シャープすぎず、素朴さがあるため、空間に抜け感を与えるアクセントとして使えます。
和モダン・和テイスト

ジャンヌレの素朴なデザインは、日本の民芸や和室にも溶け込みます。特に畳の空間に置くことで、家具自体が茶室の道具のような静けさを醸し出します。
インテリアへの取り入れ方のコツ
- 1脚だけ取り入れる:ダイニングチェアを1脚だけミックスする、ラウンジチェアをワンポイントで置くなど、全体を揃えすぎないのがポイント。
- ラグと組み合わせる:アジラルラグやジュートラグなど、織りのあるテクスチャと重ねると質感の豊かさが際立ちます。
- 古道具とのミックス:骨董や民芸品と並べても、違和感なく溶け込みます。
後世への影響と再評価
ジャンヌレの家具は、長らく「名もなき設計者による公共家具」として忘れられていましたが、2000年代以降、世界的に再評価が進みました。
特にファッションデザイナーのファビアン・バロンや、ギャラリー「Galerie Patrick Seguin」の活動により、ジャンヌレの家具はヴィンテージ市場で“再発見”され、今ではオークションで数百万円の値がつくことも。
代表的な作品
チャンディーガルチェア(Chandigarh Chair)
V字型の脚、籐の座面、斜めに傾いた背もたれ。これぞジャンヌレの代名詞。大量生産を想定しつつも、手仕事の温かみを失わない絶妙なバランスが魅力です。
イージーアームチェア(Easy Chair)
リラックスできる角度に設計された背もたれと座面。チャンディーガルの大学図書館や公官庁などに多数納品されたと言われています。
カンガルーチェア(Kangaroo Chair)
名の通り、跳ねるような形状の低座ラウンジチェア。背もたれから座面にかけての流れるようなカーブとV字型の脚が印象的。床座に近い暮らしのスタイルや和の空間にもマッチしやすいデザインです。
まとめ|「飾らない美しさ」が息づく家具
ピエール・ジャンヌレの家具には、デザインにおける“正しさ”と“やさしさ”のようなものが同居しています。ル・コルビュジエのようにアイコニックで理論的なデザインではないけれど、手で触れたとき、そっと腰掛けたときに、静かに「これはいい」と思える。そんな滋味深い魅力が詰まっています。
インテリアに取り入れる際は、あまり肩肘張らず、生活の延長としてそっと配置するのがジャンヌレ流。ヴィンテージでも復刻品でも、空間に一本通った美意識を加えてくれる存在です。
インテリアの文脈で語られることが少ないジャンヌレですが、だからこそ取り上げたいと思いました。飾らないことの美しさに気づかせてくれる偉人です。